うめきやさんのうめき声を、私が言っていたと思っていたらしいハヤス。



「なに言っているんですか?」

と言われても、回答に困ります。

私には聞こえなかったというふりをするのも不自然ですし、さらに気味が悪くなってしまうかもしれません。

ここは、一度失敗しているけれど、「風の音」ってことにしてみます。
だって、他に聞き間違えるものが思いつきません。

「なにも言ってませんけど?風の音じゃ・・
「違いますよね?人の声です。」

めずらしくハヤスが人の話を食い気味に言い返します。
やはり、この手は使えないようだ。

ハヤス「窓じゃなくて、未依さんの方から聞こえますけど?」

正確には、私の方から聞こえるのではなくて、うめきやさんが、だんだん私の方へ近づいてきているのだけど、今はそんなことどうでもよくて(もはや、うめきやさんの存在がどうでも良くなってきている)

ええと、ええと・・・

ハヤス「未依さんの声ですよね?」

ちがう、違うけど・・・他にごまかし方が思いつかない・・・。

この際・・・この際・・・


って言ったら、


嫌な顔してました。

ハヤスは、いい人なので、嫌な顔なんて、めったにしないのに。
ハヤスと私がまた仕事に戻って

しばらく経ってから

「ハヤスは、うめきやさんの声が聞こえるたび、私がうめいていると思ってたのかぁ」
と思ったら、笑いがこみ上げてきました。

一人でニヤニヤ笑っていたら、



嫌悪感丸出しな顔をしていました。
それからというものの、うめきやさんの声が聞こえるたび
ハヤスは嫌な顔をして私を見るようになりました。



うめきやさんの声は、私のほうじゃなくて、あっちの方から聞こえるのになぁと思いつつ、否定できないのでした・・・。